7月3日(月)、本社に出社する。3ヶ月ほど研修して10月頃リヤドに赴任といわれる。赴任後イカマという外国人居住許可証のようなものをとるというのがポイントらしいが、よくわからない。フロアのしかるべき人に挨拶。皆、お〜来たかという顔をするが、「かわいそうに、何も知らんで」と売られていく子牛をみるような顔つきである。しかし、こちらの関心は家族のことと犬のことが心配だという以外、すでに「おもしろそうだ」に変わっている。
ひととおり手続きをして今日はおしまい、会社を出る。すぐそばにガルフエアという航空会社のビルがあったので中に入って、エレベーターで上にあがる。お店ではなくて事務所だ。女の人が出てくる。サウジに行くのですが犬は連れていけますか?と聞くと、行けるようなことは言ってくれるが、サウジに行っているのはサウジアラビア航空だと電話番号を教えてくれた。
翌日から3泊4日でにわか仕込みの英語の研修が会社の研修センターで始まる。近々海外に赴任する数人の研修で、同じサウジのジェッダにいく同僚もいる。先生が入れ替わり立ち替わりで大変だが、大きな黒人の女の先生が、外国に行ったときの心細さと現地へのとけこみかたについて熱弁をふるう。どこへ行くのだと聞くのでサウジだというと、ベドウィン(遊牧民)とつきあうかという。英語だけでも大変な思いをしているのにアラビア語かよ! それにこちらは犬を連れていかなければいけない。何歳だと聞くので、5ヶ月だと答える。「パピー?」「イエス!」でもこんなに大きいと両手を広げて大きさを示す。
「もしうまくいったら『犬をサウジに連れていく方法』を新聞に書く」
金曜日、研修が終わって、会社の元気な女の子とスイス料理屋でワインを飲む。彼女はあまりにも若くて、サウジにいくことになったのを「よかったじゃないですか」と言ってくれる心のまっすぐな子だが、とにかくきれいで、姿勢を正して、西洋風のふるまいに自然になる。「出発前に家に遊びに来て」と約束して別れる。
翌週、ひたすら最後の残務整理をし、金曜日、ほのぼのメンバーが歓送会をやってくれる。ここ3週間の奮戦と、しかしまだよくわからぬ「犬をサウジに連れていく方法」についてしゃべりまくる。大体どうやって成田まで行くのだ。犬のことさえなければ楽勝なのに、「犬を飼ったのは失敗だ!」と叫ぶ。