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7.ナブッコ

今回のガラコンサートで歌うことが嬉しかったのはタンホイザーだけでなく、ナブッコの「行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って」があります。名称が長いので「ナブッコナブッコ」と省略して呼んでいましたが、少し乱暴な名前の扱いにかかわらず、「カン太カン太!」と呼ぶような愛着があるからこれでいいんだという気持ちをずっと持ち続けました。合唱の出だしの3小節前、6回、上行音符が下がるのを繰り返して1小節全休符、ようやく合唱の歌い出しが始まりますが、運命の第4楽章に突入する前の1分間に匹敵します。時間は短いし、音の大きさの落差は運命の方が圧倒的に大きいのですが、劇的というのは音の大きさとは関係がなく、緊張の強さなのだと思います。練習の始めのころ、学生さんの指揮で練習した時、彼は「あまりむずかしくないですね」と言っていましたが、合唱指揮者のこの曲に対する思い入れは強く、何度も何度もこの曲はこういう風に歌うのだと指導を受けました。曰く、

「出だしのソットヴォーチェでお客さんに鳥肌を立たせる。」

「ホールの一番奥に届くぎりぎりのピアニッシモを歌う。」

「ピアニッシモは誰かがちょっと出かかったら、それでぶっ壊れる世界。一人残らずで集中したい。」

「ピアニッシモのほうが強いエネルギーが要る。」

「美しいふるさとはもう無い、神よどうしてくれるのだという気持ちが『黄金に輝く竪琴よ』のフォルティッシモとなる。」

「ユニゾンは作曲家のとっておき。ヴェルディがイタリア最高の作曲家と呼ばれるのは、ナブッコのユニゾンを聞くとわかる。ピアニッシモの緊張が続き、最後までそれを持続する。各フレーズが解決しないままにずっと続く。解決しない気持ちを表現する、最高度の音楽表現を求められるむずかしい曲です。」

最後に『神よ勇気を、力を与えたまえ』と歌うが、神の返事は何も帰って来ない。それをヴェルディは最後の二つだけの音で表している。これがヴェルディです。」

「ナブッコはイタリア第2の国歌と言われている。イタリア人に対して敬意と尊敬をもって歌いましょう。」

練習を歌い終わって「いい曲だなあ!」とこの曲に対する愛情があふれていて、練習中のコメントの数はナブッコがダントツでした。

この曲はいいCDがなかったので、シノーポリ指揮のものを数年以上前に買って一回聴いたかどうかという状態が続き、1985年オペラフォーアフリカというチャリティーコンサートの最後でナブッコが歌われていたものをいつも聴いていたのですが、この演奏はソリスト達が俺が俺がと声を張り上げ、かつバラバラで、こういうものだと思っていました。今回の練習で、ピアニッシモへのこだわりを教えられ、サッカー場で歌われるナブッコは声を張り上げていると聞き、なるほどこういうものだと思いました。

マエストロの練習でも、25年程前、ミラノスカラ座へのリッカルド・ムーティーの初お目見え?のテレビ放映で、この曲が終わると拍手がやまない。ムーティーがもういいだろうと指揮棒を上げて準備するが鳴りやまない。10分くらい拍手が続き、アンコールした。スカラ座はアンコールをしない劇場だが、感動的なシーンだったという話をしていました。マエストロは「ピアノ」を「弱く」と訳したのは間違いで、強く歌ってかまわない、オーケストラをバックにピアノで歌うと聴こえないということで、今回は強く歌いましたが、ピアノで歌いたかったと思っている人は大勢いると思います。

                                                                                    2010.4.15