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4.楽譜について

主宰は楽譜が読めないのですが、もともと読むものだとは思っていませんでした。小学校の音楽の授業で、曲を新たに習うとき、始めのうちは「一と、二と」と女の先生がリズムをとる練習をし、それが終わると音をドレミで歌い、その後歌詞をつけて歌いますが、ここに至って歌を覚えてしまうと、楽譜を読む必要がないので、ずっと読む必要はないものだと思って来ました。姉がピアノを始めて、いたずらでバイエルの16番まで弾いたことがありますが、この場合はピアノの鍵を叩くとき、どこの鍵と探さなければなりませんから、確かに楽譜を見て、鍵を叩き、それが連続して音楽になるので、楽譜を読んでいることになります。しかしピアノは嫁入り道具でいなくなってしまい、それきりとなりました。大体、100万より大きい数字は一、十、百、千、万・・と数えていかないと読めないのと同じで、5線譜上の位置も、下からドレミ・・と数えていかないとわからないのです。

さて、楽譜は読めないが歌は歌えるというのは、どうやら字は読めないが話すことは出来るというのと同じことのようです。世界には字を読めない人はたくさんいます(文盲)が、しゃべれない人は機能障害の人以外にはいません。我々は字を読むために小学校以来多大の労力を費やしています。それは何のためか? ひとつは記録です。しゃべったことはその場で消えますからそれきりですが、校長先生のお話の原稿が用意してあったら、聞いて忘れてしまっても、後で何度でも読み返すことが出来るからです。そのために読む練習を延々と続けます。校長先生は自分の話す内容をあらかじめ原稿に書きます(書くと思います)が、書くというのは読むよりも更に大変で、これも長い修練をします。「話す、読む、書く」の順番に大変さが増しますが、「歌う、楽譜を読む、楽譜を書く(作曲する)」の順に大変なことは納得がいくと思います。字のもうひとつの目的は、正確性ということです。口約束とはよく言ったもので、社会生活を確かなものにするためには書かれたもの(証文)が必要なことはおわかりでしょう。これと同じように楽譜に書かれていると、ある曲がいつまでもきちんと演奏されることが可能になります。1974年頃、バルトークの評伝本の書評が新聞に載っていました。そこで、バルトークが民謡の蒐集をしたことについて、次のように書かれていました。「バルトークは彼の能力を作曲にふりむけた方が価値が高かったにもかかわらず、民謡の蒐集という価値の低い仕事に労力を費やした。自分が採譜しなかったら消えてしまう民謡を残さなければという思いでしたことである。」この書評の意味するところは、バルトークが(ベートーベンに似て)まじめだということと記憶しますが、ここでは楽譜に残すことで口伝の民謡を残すことができるということの例として引用しました。

そろばんを習うと暗算が出来るようになりますが、言われた数字をそろばんの珠に置き換えて計算をするわけです。朗読あるいは黙読というのは、字を見て、これは「あ」と言う字だ、「い」だと順に理解し、それを音に頭の中で変換して発音する、あるいは発音したつもりになる(生理的にどういうことが起こっているのかは知りませんが)ということです。

ガラコンサートを終わってピアノの先生に、知っている曲ではない曲の楽譜を見たとき(初見)どうなるのですかと聞いたところ、音が頭の中で鳴ると言っていました。読み書きそろばんにピアノを加えればいいわけです。

さて、練習も佳境に入ったころ、主宰が楽譜を見ないで歌っていたところ、となりのとびきり上手な人に「暗譜しているのですか?」と聞かれました。暗譜もなにも、ただ覚えているのを歌っているだけですと答えましたが、歌を覚えるのと、楽譜を覚える(暗譜)のとは違います。覚えてしまえばいいじゃないかという生兵法では、大きな、複雑な曲をちゃんと歌うことはできません。今回、タンホイザーは曲の移り変わりまで覚えることが出来なかったので、楽譜を見ながら歌いました。楽譜を介することで大人数が、何ページの何小節目からといった細かい指示に整然と従うことが出来るということもあって、楽譜が読める方がいいのはあきらかですが、それにはピアノを叩きながらの練習という、今からではもう遅い試練が待っているわけです。

最後に生兵法流の負け惜しみですが、感動する瞬間というのは、楽譜を読んで感動するのではなく、出た音を耳から聴いて感動するのではないか? 生兵法にも3分の理があるのではないか? ちがいますか?                                2010.3.22